第6話 義経、追い詰められること
「みんな、おまたせ!! 芭流(VALU)優待の準備ができたよ!」
頼朝は、自らの芭を購入している坂東武者向けに発表した。
「私の芭(VA)を買ってくれた人には、全員になんと先祖代々の領地を保証するよ!
10芭以上の購入者には、鎌倉にお屋敷もつけちゃう!」
その瞬間、頼朝の芭が急高騰した。
更に、頼朝の芭が足りなくなると、頼朝の弟たちは
「私の芭を買ったら、兄上に取り計らってあげる」という優待も発表。
ついに芭のランキングは、平家一門からガラッと変わり、源氏一色になったのだった!
「やったね!」
……しかし、不穏な空気が流れる。
頼朝の異母弟である「源義経」は、ちょっと調子に乗りやすい気質だった。
そこに目をつけた後白河法皇は、義経にコンタクトをとった。
「……君が持ってる芭、最高値で半分買ってあげるよ」
「えっ? ほんとうに?」
「ああ、これで頼朝くんより利益が出る事請け合い」
「わーい! 私、前々から芭の購入者が、私より高い値段で私の芭売るの、ずるいなーって思ってたんだよねー!」
それに気づいた梶原景時は慌てて義経に忠告した。
「義経殿、あなたが今の地位にいるのは、頼朝様の弟という事で、頼朝様の家臣(フォロワー)があなたの芭を購入したからです。それをゆめゆめお忘れなさるな」
そう。芭の価格が高くなったのは、自分だけの力だけではない。
購入者がやりとりするから、価値が上がる。
芭流とは、自分の利益を追求する場ではなく、自分の価値を高める場である。
そこを義経は見誤り、梶原景時の忠告を無視した。
いや、景時の忠告の仕方もちょっと悪かったかもしれない。
「はー!? なにあのオッサン! みんなの前で怒んなくてもいいじゃん!!」
そう、全員が見ている場所で叱責してしまったのだ。
「そういや、義経殿って……」
「この前も、手柄を独り占めしたし……」
「……ちょっと、ついてけないよね……」
義経の芭を購入していた者が次々に手放し始めた。
「えっ! ちょ、ちょっとみんな待って!! 売らないで! 私の芭の価値がぁ……!!」
こうして義経の価値がみるみる下がり、とうとう芭保持者は、義経の郎党とその保護者である奥州藤原氏のみになってしまった。
「義経殿、私がまだ芭を保持しています。しばらく様子を見て再起を図りましょう」
「ありがとう、泰衡くん……君だけが頼みの綱だよ」
しかし、義経の事を一番怒っていたのは、何を隠そう兄である頼朝だった。
ランキングで清盛一門を下したと言っても、いつまたランキングが覆るかわからない。
鎌倉に武士の都を作るには、今のランクを盤石なものにしなくてはいけないのに、義経は目先の利益に捕らわれてしまったのだ。
「義経、いい子だから、一旦お前の芭をお兄ちゃんに預けなさい。藤原泰衡くん。私に持ち義経芭を売りなさい」
若くして奥州の芭を管理しなくてはいけなくなった泰衡は、頼朝にはあまり逆らいたくなかった。
義経芭が元の価値まで戻れば、奥州の価値も潤うと思っていたが、鎌倉に目をつけられてしまえば意味がない。
「義経殿、私、一旦頼朝様に売りたいなー……なんて……」
しかし、義経には頼朝の真意も泰衡の立場も、ついにわからなかった。
「なんで!? 泰衡くんの裏切者! もう知らない! 私芭流やめる!!」
こうして義経は自ら芭流を退会してしまったのだった。
退会するには、退会する旨を宣言し、芭を全て自分で購入し、回収しなくてはいけないのだが、
義経はもはや芭の価値は地に落ち、保持者も少なかったために簡単なものだった。
「あぁ、義経殿がやめてしまった……でもこれで鎌倉に目をつけられる理由もなくな……いっ!?」
頼朝は無表情だった。人はここまで表情を無くせるのかというほどに。
「泰衡くんさぁ……私、義経の芭をよこせって言ったよね? 退会させろなんて言ってないよね?」
「私のせいなのー!?」
「悪いと思ってるんならさぁ。奥州の芭売ってよ。義経の芭の額で」
「ひぃいいいいい!」
こうして、奥州の芭も手持ちに加えた頼朝は、ついにその価値を盤石なものにし、
鎌倉に幕府を開いたのであった。
……その後、頼朝の芭を巡って、鎌倉内部であれやこれやあるのだが、それはまた別のお話。