出海は夕方に出かけて行った。家主の老人の使いで越後まで手紙を持って行くらしい。 握り飯の礼もあるからと快く引き受けていた。いくら足に自信があっても行って帰ってくるまで何日も掛るだろう。 「それじゃぁ、じいさん。鉄蔵を頼む続きを読む
出海は夕方に出かけて行った。家主の老人の使いで越後まで手紙を持って行くらしい。 握り飯の礼もあるからと快く引き受けていた。いくら足に自信があっても行って帰ってくるまで何日も掛るだろう。 「それじゃぁ、じいさん。鉄蔵を頼む続きを読む
ある夜、一人の男が京都を歩いていた。 ゴワゴワとした髪を無理やり縛りつけ、裾のすぼまった変わった袴をはき、腰に鍔の無い刀を差していた。
「……龍さん、いつも一緒にいちょった男はどうした?」 「出海さんなら、行ってしもうた」 武市に尋ねられた龍馬は笑って答えた。江戸から土佐へ戻る途中の事だ。
時は経ち、更に二十年。
十年後―― 江戸の町に男の怒鳴り合いが響いていた。