出海は夕方に出かけて行った。家主の老人の使いで越後まで手紙を持って行くらしい。 握り飯の礼もあるからと快く引き受けていた。いくら足に自信があっても行って帰ってくるまで何日も掛るだろう。 「それじゃぁ、じいさん。鉄蔵を頼む続きを読む
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名もなき空 3
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名もなき空 2
ある夜、一人の男が京都を歩いていた。 ゴワゴワとした髪を無理やり縛りつけ、裾のすぼまった変わった袴をはき、腰に鍔の無い刀を差していた。
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陸奥天兵の章 園部秀雄編 5
しかし、秀雄は悩んでいた。 果たし状を持ってきたという男は、身延山久遠寺で仕合った、あの杉の木の化物だろう。 『少しだけ見せてやるよ、お嬢ちゃん。アンタが進もうとしてる道の先で何が待ち構えているのか……な!』 その化物か続きを読む
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陸奥天兵の章 園部秀雄編 4
明治二十一年秋――。 たりたが佐竹鑑柳斎の撃剣一座に入門して二年半。 父との約束の三年まであと半年という所まできた。 ――私は……どこまで来たんだろうか……。
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かくれんぼ
「もう、いい加減にしてくれよ!」 あいつがオレに言った最後の言葉がそれだった。親父とお袋がきょとんとこっちを向いて、母親に抱かれた天兵はその声で起きて少しぐずった。 いつもの兄弟喧嘩だ。 お前も一人前になったし、オレも若続きを読む